序章:人気エリア「恵比寿」の不思議
東京の中でも特に人気の高いエリア、恵比寿。
高級レストランやおしゃれなカフェ、住みたい街ランキングでも常に上位に入るこの場所ですが、ふと「恵比寿ってなぜこの名前なんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?
実はこの地名には、ビールブランドと神様の両方が関わっているというユニークな歴史が隠されています。今回はその由来をじっくり紐解いていきましょう。
恵比寿の名前の原点は「恵比寿ビール」
現在の恵比寿という地名は、明治時代に誕生したビールブランドに由来しています。
明治のビール産業と「ヱビスビール」
1890年(明治23年)、日本麦酒醸造会社(のちのサッポロビール)が現在の渋谷区恵比寿南に大きなビール工場を建設しました。ここで造られたのが、今でも愛され続ける「ヱビスビール」です。
当時はビール文化が広まり始めた時代で、輸入ビールに負けない「純国産の高級ビール」として売り出されたのが「ヱビスビール」でした。瓶には七福神の恵比寿様のイラストが描かれ、そのブランドイメージは庶民にすぐ浸透しました。
駅名が「恵比寿駅」に
ビール工場から全国へ出荷するために、1901年に貨物専用の「恵比寿停車場」が設置されました。やがて旅客駅としても利用されるようになり、1928年に「恵比寿駅」が正式に開業。
こうして「ビールの名前」から「駅の名前」へ、さらに「駅周辺の地名」へと広がり、現在の「恵比寿」という地名が定着したのです。
七福神「恵比寿様」との関わり
では、ビールに「ヱビス」と名付けられたのはなぜか。
それは七福神の一人、恵比寿様にちなんでいます。
恵比寿様とは?
恵比寿様は釣竿と鯛を持った姿で知られ、漁業の神・商売繁盛の神として古くから信仰されてきました。
七福神の中で唯一日本由来の神様とも言われ、「えびす顔」「福の神」としても庶民に愛されてきました。
縁起の良さがブランドに
日本麦酒醸造会社は、縁起の良い名前を付けたいと考え、「恵比寿様」をシンボルに採用。
当時のビールはまだ高級品だったため、商売繁盛の象徴である恵比寿様を用いることで「福を呼ぶビール」というイメージを打ち出したのです。
ビールから街へ、そして文化へ
「ビールの名前 → 駅名 → 地名」と広がった恵比寿ですが、単なる偶然ではなく、街の発展と深く結びついています。
工場の街からおしゃれタウンへ
恵比寿は長い間、ビール工場を中心とした産業の街でした。しかし1988年にサッポロビール恵比寿工場が閉鎖され、その跡地には現在の「恵比寿ガーデンプレイス」が誕生。
これにより、街は一気に再開発され、「おしゃれで洗練された街」というイメージに生まれ変わりました。
今も残る「ビールと神様」の痕跡
- 恵比寿駅には「ヱビスビール記念館」があり、今でも当時の歴史を学べます。
- 街中には「恵比寿神社」があり、商売繁盛を祈る人々が参拝に訪れます。
- そして、毎年10月には「恵比寿麦酒祭り」が開かれ、ビールと街の歴史が祝われています。
現代の恵比寿と由来の意味
今日の恵比寿は「住みたい街」「デートに人気の街」として知られていますが、その背景には、ビール産業が築いた基盤と、恵比寿様の縁起の良さが息づいています。
名前一つとっても、「お酒」「歴史」「信仰」が重なっているのはとてもユニーク。
ただのおしゃれタウンではなく、日本の近代化や信仰の文化を映した街であることが、恵比寿の最大の魅力と言えるでしょう。